広海先生のコラム

 

著者:広海 十朗 日本大学生物資源科学部 海洋生物資源科学科 特任教授

湘南健康長寿研究会:代表副理事

農学博士。日本大学生物資源科学部付属国際地域研究所からの海外研究プロジェクト事業の援助のもとロシア極東連邦大学(ウラジオストク)と2014年から3か年間海藻食文化の普及並びに昆布産業の振興策をテーマとする共同研究を行いました。
海藻食文化の普及のためには海藻を食べることがなぜ健康に良いのか?これを啓発することが必要との認識から、海藻と人の健康の関係について過去の知見を収集・整理しました。
今回のコラムは、その成果の一部を公表するものです。

 

 

海藻食のすゝめ(続編)

1.   骨粗しょう症と海藻

 骨量の減少、骨の微細構造の劣化によるもので骨密度または骨の強度の低下により、骨折するリスクの大きくなる病気です。自覚症状がなく、進行状態を把握すること無頓着であることが多いのです。「骨粗しょう症の予防と治療ガイドライン」(日本骨粗鬆学会など2015年)の診断基準によれば、骨密度(BMD)が20-44歳の若年成人平均の70%以下なら骨粗しょう症です。専門機関でDXA(デキサ)法(微量なX線をあてカルシウムなどのミネラル量を正確に測定)の検査を受け背骨や大腿骨のBMDを測定することが望ましいでしょう。骨の健康状態(量と質)は食事と運動で維持するしかありません。食事ではカルシウムに富む内容に改めることが、骨粗しょう症対策として有効です。骨を作るカルシウムが効率よく吸収・利用させるには、骨の石灰化に関与するマグネシウムとビタミンDの二つが骨の健康に重要であることが知られていますので、必然的に乳製品や魚類に注目が集まることでしょう。厚生労働省の発表した「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、1日のカルシウムの推奨摂取量は成人男性で650-800mg以上、女性が650mg、ビタミンDでは成人男性、女性ともに5.5μgとなっています。カルシウムは魚介類や乳製品に多く、ビタミンDはキクラゲ、魚類に多いことが知られています。しかし、これ以外にミネラルの多い海藻を食べることによっても摂取量を増やすことができます。「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」によれば、海藻の中でも褐藻類が多めで、100 g乾燥重量あたりの量は昆布類で430-760 mg、ワカメで780 mg、ヒジキではなんと1000 mgもあります。ちなみに加工乳(濃厚)では100 mg/100 g程度です。

 ヒジキの熱処理抽出物にはBMDを増加させる効果のあることが知られています。また、カルシウムの吸収能を高める活性吸収型のカルシウム(AAACa)というものが開発されています。これは、牡蠣の殻を減圧下約800度で燃やしたものにヒジキを同様に熱処理したものを混ぜたものです。Fujitaら(2000)1)は骨粗しょう症や骨減少症を抱える女性の被験者34名(26-91歳)にAAACaを1日あたり900 mgを4ヶ月間与えた結果、BMDが明らかに上昇したことを報告し、椎骨骨折を減らしてくれる可能性を見出しました。また同時に、副甲状腺ホルモン分泌量が顕著に抑えられたことも報告しています。カルシウムの摂取は骨粗しょう症の予防だけではなく三大疾患の一つである心疾患の予防にも極めて重要です。カルシウムが不足すると逆に血中のカルシウムが増えます。これをカルシウムパラドックスといいます。カルシウムが不足すると、副甲状腺からカルシウム代謝を橋渡しする副甲状腺ホルモンが分泌されます。しかし、このホルモンが常に分泌される結果、骨から過剰にカルシウムが送り出されることになり、余分なカルシウムがカルシウムを必要としない血管や脳などに入り込見ます。こうして血管の壁が硬化し動脈硬化となるのです。

1)    Fujita et al (2000) Peripheral computed tomography (pQCT) detected short-term effect of AAACa (heated oyster shell with heated algal ingredient HAI): a double-blind comparison with CaCO3 and placebo. J. Bone Miner. Metabo., 18:212-215.

 

 

海藻食のすゝめ目次

  

 

「海藻食のすゝめ」その1)”海の野菜”である海藻の食品成分上の特色とは?

“海の野菜”である海藻の話題に入る前に、“陸の野菜”いわゆる野菜について簡単に触れておきます。野菜が体に良い理由は、第1にビタミン類が豊富、第2にカリウムなどのミネラルが豊富、第3にファイトケミカルに富むことです。ファイトケミカルとは、植物が紫外線などによって発生する活性酸素から身を守るために備える、抗酸化能力のある物質のことで、カロテンなどが代表的なものです。そして4点目の理由は食物繊維が多いことです。

 ”陸の野菜”に比べて”海の野菜”の海藻の栄養成分上の特徴は何だと思いますか?表1を見てください。これは文部科学省発行の「日本食品標準成分表2015年版」から抜粋したものです。 

この表には音声リンクが付いています。注意:クリックすると音が出ます。

この表でワカメのヨウ素の欄にアステリスク(※印)がありますが、通常、調理に使うカットワカメでは8,500 μgあります。

 さあ、両者の違いがわかりますか? そうです。海藻の特徴は、

1点目がカルシウムからヨウ素に至る各種ミネラルが野菜よりもはるかに多いことです。2点目は“陸の野菜”、特に黄緑色野菜と同様にβカロテンなどのカロテノイドが多いことです。3点目は食物繊維が多いことです。4点目はタンパク質の含有量は穀類並である、ということです。この表には出していませんが、タンパク質の栄養価を判定する必須アミノ酸の含有量(アミノ酸スコアと言いますが)も高いことで、海藻のタンパク質の栄養価は極めて優秀なのです。さらに海藻の脂質についても触れておきます。海藻の成分の特徴の5点目としてω-3系の多価不飽和脂肪酸(多価とは炭素の二重結合が二つ以上ある、という意味ですが)、例えばEPAエイコサペンタ塩酸などを多く含んでいることです。少ないながら、ω–6系の多価不飽和脂肪酸、例えばアラキドン酸も持っているということです。

 いかがでしょうか? “海の野菜”の海藻も日常の食事に取り入れたらいかがでしょうか。次回は、海藻類がもつ独特な化合物についてお話しします。

 

広海十朗(日本大学生物資源科学部 特任教授)

 

 

 

 

 

海藻食のすゝめ その2)“海の野菜”に特有な化合物とは何か?

今回は“陸の野菜”にはない、海藻に特有な化合物について述べます。

図1をご覧ください。特有な化合物名は四角で囲んであり、四角の背景の色が、黒は褐藻類、灰色は紅藻類、そして白は緑藻類を表し、例えば、カロテノイド類のフコキサンチンは褐藻類に、また、多糖類の寒天は紅藻類に存在します。 

図1

 

海藻類に特有な化合物とは次のとおりです。カロテノイドではキサントフィル類のフコキサンチンアスタキサンチンです。フコキサンチンは褐藻類に、アスタキサンチンは緑藻類といっても海藻類ではなくヘマトコッカスという淡水産の微細藻類に存在します。アスタキサンチンは、他にはエビ・カニの甲殻類などにも存在しています。図1で、カロテノイドのすぐ下にあるポリフェノール類では、海藻ポリフェノールと呼ばれるフロロタンニンが褐藻類から、また僅かながら紅藻類から見出されています。ブロモフェノールが紅藻類と褐藻類から分離されています。図の右手にあります多糖類ではアルギン酸、フコイダン、ラミナリン(ラミナランとも言いますが)が褐藻類に、カラギーナン、寒天、ポルフィランが紅藻類に、そしてウルバンが緑藻類のアオサ類に存在します。図の左手下にありますステロール類はステロイドの一つのグループに属するものですが、藻類以外にも動物や菌類そしてバクテリアに存在します。動物由来のステロールで馴染みのあるものはコレステロールです。藻類由来のステロールはファイトステロールと呼ばれます。フコステロールというものが代表的なもので、主として褐藻類に存在します。ステロールの下にありますペプチドとは2から50のアミノ酸がペプチド結合により繋がった化合物で、このうち2から20のアミノ酸がペプチド結合したものをオリゴペプチドと呼びます。様々な新しいペプチド類が褐藻類や紅藻類から見出されています。血圧を下げる効果のあるペプチドが製品化されています。一例ですが、白子ノリのノリペプチドSというもので、消費者庁によりトクホ(特定保健用食品)に認定されています。

 

次のその3)では、海藻類に特有な化合物が持っている生理活性作用について説明します。HPへの掲載は8月3日を予定しています。

 

 

 

 

海藻食のすゝめ その3)海藻に特有な化合物のもつ生理活性作用とは?

海藻に特有な化合物のもつ生理活性作用とはなんでしょうか?それは 表4にまとめたとおりで、実に様々な働きが知られています。ただし、これらの作用はヒトではなく、試験管内の細胞試験レベルまたはマウスやラットなどの動物実験などで確認されたものです。

カロテノイドのフコキサンチンについては、他のカロテノイドと同様に抗酸化作用、抗アレルギー作用、抗ガン作用、抗高血圧作用などが知られています。この他にも、最近になって、内臓脂肪蓄積抑制作用、抗糖尿病作用のあることが知られるようになりました。フコキサンチンを肥満ラットやマウスに投与すると白色脂肪組織が顕著に減少することが明らかになりました。アスタキサンチンは抗酸化作用が顕著で、その活性はビタミンEβカロテンの3倍もあります。

ポリフェノール類のフロロタンニンには、ヒト乳ガン細胞株に対する抗増殖作用、抗ガン活性が知られています。さらにはアンジオテンシンI変換酵素(ACE)の活性を阻害することから、抗高血圧作用が知られています。アンジオテンシンとはある種のペプチドホルモンのことで、血圧を上昇させます。また、坑高血糖、抗高脂血症、抗炎症、抗酸化作用なども知られています。

ブロモフェノールにはαグルコシダーゼを抑制する効果、すなわち、食事で摂取された炭水化物は消化酵素であるグルコシダーゼによりブドウ糖などの単糖類にまで分解・吸収されますが、この酵素の働きを抑制するということは糖の分解・吸収を遅らせる、あるいは緩やかにし、食後の血糖値のピークを減少させます。このブロモフェノールpH237でも失活しないことから、2型糖尿病患者のための天然の機能性食品として、将来活躍するかもしれません。ブロモフェノールはまた、肺ガン、胃ガン、乳ガンを含む6種類の細胞株を死滅させるという抗ガン作用を持つことも特徴的なことです。

多糖類のアルギン酸は代表的な水溶性の食物繊維で、食欲を減退させる可能性が指摘されています。アルギン酸は先のフコキサンチンと同様に、ヒトの脂肪の量や体重を良い状態に管理してくれる可能性があります。

フコイダンは血液の凝固を防止する、という抗凝血作用を持ちます。主に動脈硬化によって血管の内腔が狭窄し、臓器へ豊富な酸素を含んだ血液が供給されなくなるという心血管疾患(これには冠動脈疾患、脳梗塞、末梢動脈疾患を含む)を予防する可能性があります。フコイダンはまた、様々なウイルスの増殖を抑制するという抗ウイルス作用を持ちます。ラミナリンもまた抗凝血性を持ち、他には抗炎症作用(消炎作用)、抗酸化作用が知られています。

 4(続き)をご覧ください。カラギーナンにも抗凝血特性、抗血栓凝固作用、さらには「単純ヘルペスウイルス」(ヒトヘルペスウイルス)やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)、これによってAIDSになるのですが、これらに対する抗ウイルス作用を持つことが知られています。寒天にも様々な生理活性が知られています。例えば、抗酸化作用、抗炎症作用、抗肥満作用、抗糖尿病作用、動脈硬化を予防する「抗アテローム発生作用」、などが知られています。アテロームとは血管内の膜のプラーク、すなわちコレステロールなどの脂肪からなるドロドロとした粥状の塊のことです。ウルバンも「抗アテローム発生作用」が知られています。ポルフィランは発ガン性細胞を死滅させるというアポトーシス(細胞死)作用を持つことが知られています。

フコステロールは海藻が持つ独特なファイトステロールの一つで、抗肥満作用、抗糖尿病作用、アンジオテンシンI変換酵素の抑制、すなわち抗高血圧作用、抗ガン作用、血中コレステロールの低下作用、さらには抗アルツハイマー病など、多くの生理活性が知られています。オリゴペピチドは、アンジオテンシン変換酵素の活性を抑制する天然の化合物として、多くの研究がされてきました。ノリペプチドについては、後述する人の臨床的知見のところで触れます。KahalalideFカハラライドFは海藻の緑藻類の一種が産生するペプチドを材料に開発された抗ガン剤ですが(厳密にはデプシペプチドの一種ですが)、これはヒトの肺ガンの治療薬として特許が取られていて、さらには肝臓ガンの治療のための臨床試験のフェーズIIという、比較的軽度の少人数の患者に対して有効性や安全性などを治験する段階のテストを受けているものです。ヒトの前立腺ガンや乳ガン細胞株の増殖を強く抑制することが試験管レベルで知られています。

 次回その4)では、海藻と人の健康について臨床試験での成果についてお話します。

 

 

海藻食のすゝめ その4)海藻と人の健康~人の臨床研究でのエビデンス

 

以上述べてきましたように、動物実験や試験管レベルでの研究から海藻には健康に資する生理活性物質が沢山あることが分ります。しかし、これらの知見がヒトの健康に適用できるのでしょうか?これが問題です。ここでは、ヒトに対して行われた臨床研究例を紹介します。

最初は、ヒトの心血管疾患と海藻の持つ化合物との間の関連性についてです。世界的に見ても心血管疾病は死亡原因として最も多いものです。 図2をご覧ください。

 

図2 心血管疾病に関わるリスク要因(楕円形で示す)と海藻の持つ化合物(四角で示す)との関連性

  

 楕円形で表したものは心血管疾病に関連する様々なリスク因子を表します。喫煙、不健康な食事、運動不足、過剰飲酒の他に肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などです。

リスク要因の一つである肥満に対してアルギン酸は肥満患者の体重を減少させました。フコキサンチンもまた肥満患者の体重と肝臓の脂肪量を減少させました。ノリペプチドは高血圧の患者の血圧を下げました。具体的には、収縮期の血圧で平均15 mmHg、拡張期で9 mmHg下げました。高脂血症に対してカラギーナンは虚血性疾患のある患者の血中の総コレステロールLDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を下げました。しかしながら、ポリフェノールのフロロタンニン、脂質異常症に対する予防効果は、動物実験から期待されるほど大きなものではなかったという報告もあります。寒天は「2型糖尿病」患者のグルコース耐性(耐糖能ともいい、グルコース処理能力あるいは血中濃度を正常に保つ能力の指標)を改善しました。

 

 図3は海藻そのものの消費とヒトの癌(ここでは肺ガン、膵臓ガン、胃ガン、そして前立腺ガン、上気道消化管ガン)との関係を示すものです。疫学的研究手法の一つである、コホート研究の結果によるものです。肺ガン、膵臓ガン、胃ガンについては死亡率を減少させ、あるいは予防効果のあることが知られています。

 

図3 海藻の摂取と人のガンとの関連性

  

 しかしながら、前立腺ガンと上気道消化管ガンとの間には有意な相関性は認められませんでした。

図4は海藻の化合物とヒトへの抗ウイルス効果との関連性を示すものです。左手の図を見て下さい。

 

図4 海藻に特有な化合物と人への抗ウイルス効果

  

 カラギーナンは、先に述べた通りフコイダンとともに抗ウイルス作用を持ち、動物実験レベルではヘルペスやHIVヒト免疫不全ウイルスに対して抗ウイルス作用を持つことが示されています。カラギーナンを入れて作られた殺菌剤ジェリーはCarraguardカラガードとして知られていますが、AIDSの原因となるHIVウイルスの感染予防はできませんでした。

 次に、右手の図を見て下さい。メカブから抽出されたフコイダン、ここではGFS、すなわち硫酸化ガラクトフカンというものを使いましたが、ヒトヘルペスウイルスに感染した被験者から感染症状が消えたこと、また、老人男性のインフルエンザに対する抗体(Ig:免疫グロブリン)の量(力価)が上昇した、という報告があります。
 ヒトの健康に及ぼす海藻またはそれらの化合物との関連性を示すデータは他にもありますが、まだまだ少ないのです。これはなぜでしょうか?それは、より確実性の高い結果を得るまでには被験者の数や研究期間の長さが十分であることなど、難しい条件をクリヤーしなければならないからです。他には、ガンの場合がわかりやすいのですが、特に比較対照群の患者に与える偽薬、すなわちプラセボ投与患者に対する倫理上かつ論理上の難しさがあるのです。なぜなら海藻成分を処方されないグループは処方されるグループに反して健康面での利益を得ることができないかもしれないのです。

 

 

「海藻食のすゝめ」その5)海藻の摂りすぎに注意を–摂取基準(耐容上限量)

 海藻は素晴らしい健康的な食材であるからと言って、食べすぎはいけません。コラム「海藻食のすヽめ」を終えるにあたり許容上限量など注意点について述べます。先ずはヒ素とヨウ素の例を取り上げます。表5をご覧になってください。

 

ヒジキとヒ素

 2004年英国の食品規格庁(FSA)は、ヒジキには無機ヒ素が多いので消費者に注意を喚起しました。この時ヒジキから無機ヒ素が乾物で平均77mg/kg、水戻ししたもので平均11mg/kg検出されました。水戻しによって85%が溶出するということになります。同時に調べられたアラメ、ワカメ、コンブやノリからは有機ヒ素は検出されたものの無機ヒ素は検出されませんでした。ヒ素は水銀と異なり無機のものに発ガンリスクがあり、危険なのです。FAO/WHO国連食糧農業機関/世界保健機関合同の食品添加物専門委員会は、無機ヒ素について暫定耐容週間摂取量を0.015mg/kg体重/週としています。例えば体重50kgの人の場合、107μg//日に相当します。この暫定量を守るためには1週間あたりで 乾燥ヒジキを10 g (1日あたりで1.4 g)を超えないように摂ればいいという計算になります。 

 

図5 ヒジキ(ヒ素)とコンブ(ヨウ素)の摂取基準

 

コンブとヨウ素

 海藻、特にコンブは甲状腺ホルモンの構成成分であるヨウ素を多く含んでいます。日本人がヨウ素不足になる心配はあまりないのですが、不足すれば甲状腺の肥大、甲状腺腫、クレチン症になりますが、日本人の場合は、むしろ必要量を越えることが危惧されます。厚労省の「日本人の食事摂取基準2015年版」によれば、1日あたりのヨウ素の摂取基準量は男女成人で130μg、耐容上限量は3,000μgです。ただし、妊婦の場合の上限量は2,000μgです。仮に、1日あたりコンブを10g食べるとすれば、ヨウ素の摂取量は20,000μgとなりますので上限量3,000μgをはるかに超えてしまいます。でも、通常は水に戻して、あるいは煮た状態で食事に出るかと思います。このような条件でどれほど溶出するのでしょうか。コンブの場合、20分間の水戻しで90%以上が溶出します。したがって、水戻しした後のコンブに10%残ると仮定すれば、2,000μgとなりますので上記の上限量を下回ることになります。

 

コラム「海藻食のすゝめ」を終えるにあたり

 日本を含むアジアでの乳ガンの発症率は欧米に比べれば遥かに低く、このことは海藻を消費することに関係があるのではないか、と海外の研究者から注目されています。平成25年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから、注目度は更に高くなりました。日本を含むアジアにおける低い乳ガンの発生率に対して、アメリカの女性研究者のTeas博士は古くから海藻仮説を提唱してきましたが、残念ながら仮説の域を出ていません。しかしながら、今回紹介しましたように動物実験や細胞レベルでの研究から期待される海藻類のヒトの健康に対する高いポテンシャル、潜在的な能力の高さを考慮すれば、ヒトの臨床学的な、実証的な研究は今後とも益々盛んにやられるべきです。

 

 皮肉なことに日本から、特に若い世代で「日本の食文化が消えつつある」という現実もあります。若い世代も含めて「健康的な食生活を支える栄養バランス」という特徴を持つ和食文化そして海藻食文化を大事に守っていきたいものです。


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