山形先生のコラム

著者:山形一雄

湘南健康長寿研究会:理事

学位:博士(医学)

研究:脳卒中の発症機構および食品成分の健康効果について長年研究しています。

コラムで記載した内容は、肥満が死亡率の高い疾患を強く誘導する潜在的要因になっていますが、欧米人に比べ、日本人が、小太りにとどまり、あまり肥満と病気を意識している人が少ないと思ったからです。

私の研究内容の一部を、今年(2021年)ですと、複数の専門雑誌と専門洋書に公開しています。

例えば、脳卒中ラットを用いた食品成分の脳卒中阻止作用(Yamagataら、J Cardiovas Pharmacol, 2021)、オレイン酸の新たな機構による抗がん作用(YamafaraらEur J Pharmacol, 2021)、脳のシナプス形成に関する最新知見の総説 (Yamagata、J Neurosi Res 2021)、DHAの脳卒中阻止作用に関する総説(Yamagata、J Neurosi Res 2021)など、および、複数の洋書専門書などです。

常に健康に関わる新しい知見が世界から発信されています。これらを応用して健康長寿に少しでも役立つ方策を考えています。

 

 

肥満について1   肥満は病気ですか?

 

     肥満が糖尿病やガン、心臓病、高血圧などの原因になることはよく知られています。肥満は、身体に脂肪が蓄積して体重が増加した状態を言います。したがって、単純な肥満の場合は病気ではありません。一般的には、摂取したエネルギーが消費したエネルギーを上回り、体重が標準的な体重より2割以上増加すると肥満と呼ばれているようです。一方、肥満症の場合は、肥満によって、何らかの健康障害が現れたり、あるいは内臓に脂肪が過剰に蓄積した状態を言います。肥満症の場合は病気に入り治療の対象となります。具体的には、肥満症は、体格指数(BMI;ボディマスインデックス)25以上に加えてコンピューター断層撮影(CT)による内臓脂肪の面積が100 cm2を超える場合を肥満症と定義されています。肥満症は、肥満が長く続くことで徐々に何らかの健康障害が現れます。重要な点は、肥満とともに色々な生活習慣病を発症して、さらには怖い病気である脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを高めることです。そのため重度の肥満症になると医学的な治療として減量が必要となります。

 

     BMIは、体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出される数値です。BMIは、人の肥満度を表わすことから、肥満度の判断基準とし広く使用されています。BMIは、低体重、普通体重と、さらに肥満度を4つのレベルで区分しています。男女とも、BMI 18.5以上〜25までが「普通体重」、25以上が「肥満」と判定されます。

     BMIで肥満と判定された人が、「本当に脂肪が多い肥満なのか?」と言われると、BMIだけでは肥満の定義にある「脂肪蓄積による肥満」かどうかは断言できません。例えば、筋肉が多い人は、脂肪が多い肥満者と誤る場合もあります。また、骨が太い人、骨が細い人、足が長い人などは、同じ様に判定を誤る可能性があります。そこで、厳密には、BMIとともに体脂肪の量を測定して、脂肪蓄積による肥満かどうかを調べるこが重要となります。しかし、多くの人は、家庭で体脂肪を正確に測定することは難しいので、比較的簡単なBMIのみで肥満を判定しているようです。BMIの数値を鵜呑みして、右往左往せず、可能であれば自分の脂肪量を測定してみることが重要です。肥満は、病気ではありませんが、病気の大きな基盤になることを知る事が必要です。 (KY)

 

 

肥満について2  肥満と怖い病気との関係

     肥満症により糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の発症リスクが高まることが示されています。肥満症と診断する場合には、肥満とともに、いくつかの疾患が合併していることが必要です。特に、内臓に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満の場合は、高血圧、高血糖、脂質代謝異常などを合併することで死亡率が一気に高まることから、しっかり内蔵死亡を減少させることが必要になります。つまり、内臓脂肪型の肥満に加えて、高血圧、高血糖、脂質代謝異常の3つの病態のうち、2つが合併するとメタボリックシンドローム(以下メタボと略します)と呼ばれる死亡率の高い病気に発展します。高血圧、高血糖、脂質代謝異常などは、それぞれ単独でも動脈硬化の危険因子となりますが、肥満に、これらが合併したメタボでは、さらに動脈硬化の形成を強く促進して心臓病や脳卒中の発症リスクを顕著に高めます。メタボの診断基準の一つに腹囲のサイズが入っていますが、腹囲のサイズで内臓脂肪の大きさを推定できます。また、中性脂肪と血糖値は、いずれも動脈硬化の危険度を推測する事ができ、また血圧は、血管へのストレスの程度が予測できます。メタボが強く心血管系疾患の危険因子となることから、これらの項目が測定基準に選ばれています。

 

     メタボは、いずれにしても、血管を傷つけたり、もろくしたりして、動脈硬化を強く誘発します。動脈硬化が心臓の血管で起こると、心筋梗塞のリスクを高め、動脈硬化が脳の血管で起こると脳卒中の発症リスクを高めます。心筋梗塞と脳卒中は、共に死亡率が大変高い病気で、特に脳卒中は、例え、生存できたとしても、予後の介護が大変で、また長引く場合も多く、一生のリハビリも珍しくありません。また、寝たきりの原因となる割合が大変高い病気です。

     肥満は、中高年以降、代謝が低下して、摂取するエネルギーが過剰になり始める頃から急激に起こり始めます。加えて、食生活の乱れや運動不足などは肥満を強く加速させ生活習慣病の発症の原因となります。肥満やメタボを、運動や食生活の改善で予防できる事は十分わかっているとは思いますが改善は、いつも後回しです。肥満の陰に怖い心筋梗塞と脳卒中が隠れていると思い、食生活を含めた生活習慣を改善してみたらいかがですか。(KY)

 

 

肥満について3  小太りは意外に怖い-糖尿病のリスク?

 

     日本人は、欧米人のように超肥満になることは、あまりありません。しかし、日本人は少し太るだけで糖尿病になりやすいことが分かってきました。例えば、本年20191月に報告された論文では「心疾患の無いBMI 25以下の非肥満の日本人男性52人」を用い「脂肪蓄積の誘導」と脂肪組織、筋肉、および肝臓における「インスリン感受性」の関係が報告されているのでご紹介します(J Clin End Met 2019;104:2325)。報告では、「肥満の無い健康な日本人男性」の場合、中程度の脂肪の蓄積で、容易に脂肪組織、筋肉や肝臓などでインスリン感受性が低下しやすい特徴があることが示されています。この原因として、日本人は元々「脂肪組織で貯蔵能力が低下している」ことと「軽度の代謝異常を有する」ことが起因すると指摘されています。

 

     「インスリン感受性が低下しやすい特徴」について簡単に説明しますと、食後血糖値が上昇すると膵臓からインスリンが分泌され、インスリンの働きで、脂肪組織、筋肉、および肝臓に、食事由来のブドウ糖が供給されて、その結果、血糖値は食後前の数値まで下がります。しかし、「インスリン感受性が低下しやすい特徴」を有する場合は、インスリンが存在していても、インスリンの効果が十分発揮されず、高い血糖値が低下しない状態が現れます。つまり、高血糖になりやすい特徴と言うことです。 

     このような状態をインスリン抵抗性と言いますが、インスリンが十分に作用できない状態で糖尿病の発症につながります。日本人は、少しの栄養過剰でも、脂肪組織への蓄積が弱いことから、あまり肥満することは無く、むしろ血糖値が上昇する傾向があり糖尿病を引き起こし易いとういことです。したがって、自分の肥満程度を欧米人の肥満程度と外見的に比較して「あまり太っていない」と安心してはいられません。むしろ、少しの肥満(中程度肥満)でも「糖尿病になりやすい性質」だと自覚することが重要かもしれません。日本の中年以降の男性は、小太りの人が多く、今後、糖尿病と診断される人が増加すると思われます。科学的根拠が、この事を証明しています。(KY)